過保護な御曹司とスイートライフ
「彩月はこれから自由にするといい。ご両親には俺から話をつけるから」
「自由にって……でも……っ」
つまり、婚約解消ということなんだとわかり、慌てて口を開く。
だって、私はお父さんの会社のために辰巳さんの家に渡されたって話なのに、そんな勝手なことをしていいのかわからない。
辰巳さんの立場を悪くしてしまうんじゃ……と心配していると、辰巳さんが言う。
「俺が、個人的な感情から婚約を解消したとうちの父に伝えればなんの問題もない。もちろん、彩月のお父さんの会社に悪影響もないから心配しなくていい」
「でも、それだと辰巳さんが……」
「それも問題ないよ。もともとうちの父はこの婚約に関してはどちらでもよさそうだったから。ただ、俺が望んだからってだけだしね。気が変わったって言えば少し呆れられるかもしれないけど、それだけだ」
目を細めた辰巳さんが、私を見て続ける。
「納得いかないなら、これは今までの罪滅ぼしだとでも思ってくれればいい。俺は、彩月が幸せならそれでいいんだ。なのに間違った守り方をして、本当にごめん」
申し訳なさそうな微笑みに、ぶんぶんと勢いよく首を振った。
謝られる必要なんてない。
「私、辰巳さんがそんなことを考えてくれてるなんて想像したこともなくて……。ずっと私のことを思ってくれていたのに、気付けなくてごめんなさい……。ありがとう」
瞳に浮かぼうとする涙をなんとか我慢して、笑顔を作る。
今までの感謝を込めて微笑みお礼を告げると、辰巳さんは驚いたように目を見開き……それから、笑みをこぼした。
「今まで随分一緒にいたのに、そんな綺麗な笑顔、初めて見た気がするよ。その顔が見られただけで充分だ」
そう笑った辰巳さんの声はいつもよりも少しだけ弾んで聞こえて……温かい気持ちで胸がいっぱいになった。