過保護な御曹司とスイートライフ
『もともと結婚願望はないし恋愛はいいかな。これからはそうだな……うちの会社の規模を倍にすることを目標にやっていこうかな。
人の感情をモノみたいに扱うのは嫌いだけど、策略を巡らせてこちらに有利になるよう話を持って行くのは好きみたいで楽しいんだ』
そんな話をした辰巳さんが帰って行ったのが十分前。
使った食器を洗う私の隣では、成宮さんがお皿を拭いてくれていた。
昼下がりのあたたかい日差しが差し込む部屋には、とてものどかな雰囲気が流れていた。
「これ終わったら、おまえの部屋の荷物まとめに行くか」
「そのつもりですけど、ひとりで大丈夫ですよ」
「いや、俺も行く。で、帰りにスーパー寄って夕飯の材料買ってくれば丁度いいだろ」
成宮さんに正式に同棲しようと誘われ、少し迷ったけれどうなづいたのは一週間前。
それから、時間を見つけて少しずつアパートの部屋を片付けているから、今日で大方終わりそうだ。
スポンジに洗剤を付け足すと、隣で見ていた成宮さんが言う。
「おまえ肌弱そうだし、手、荒れないか? 食洗機使えばいいのに」
「これだけの量なら必要ないです。それに、軽く汚れ落としてから食洗機かけるなら、もう洗っちゃった方が早い気がしてしまって」
この部屋のシステムキッチンには食洗機がついているけれど、数人分の食器をわざわざそこに入れる気にもならない。
「成宮さんこそ、別に拭いてくれなくて大丈夫ですよ」
「鈴村が食器洗ってるのにひとりで座ってる気にもなんねーんだよな。もう習慣みたいなもんかもな」
キュッキュッと音を立ててお皿を拭きながら言う成宮さんに、ふっと笑みをこぼす。
「成宮さんはいい旦那さんになりますね」
深い意味はなかった。
ただ、私が重たいモノを持っていれば代わってくれるし、家事だって手伝ってくれるし、面倒見もいいし、そういう部分から出る当然の感想だっただけだ。
だけど、少し間を置いた成宮さんが「それ、逆プロポーズ?」なんて私の顔を覗きこんできたりするから、一気に意識してしまう。