過保護な御曹司とスイートライフ
それに加え、男性にしては丁寧な話し方をするからか、私の友達はそろって辰巳さんを〝王子様みたい〟だと褒めてうらやましがる。
たしかに辰巳さんは、愛想がよくて穏やかな素敵な男性だとは思うのだけど……どうしても心を動かされないのはなんでだろう。
この笑顔に、とても細かい部分まで監視されている気持ちになるのは、私の気のせいだろうか。
「彩月?」と呼ばれ、ハッとして笑顔をとりつくろう。
「あ、すみません。……実は、寝坊してしまって。辰巳さんが来るから急いで着替えたりしていたからバタバタと」
「ああ、そうだったのか。ごめん。休みの日はもう少しゆっくりした時間にお邪魔することにするよ。彩月も寝坊くらいしたいだろうし、俺としても彩月に無理させるのは本意じゃないしね」
スリッパを履いた辰巳さんが「九時半はどう?」と提案するから、曖昧な笑みを返す。
「そういうつもりで言ったわけじゃなかったんですけど……そうしていただけると助かります。あまり朝は得意ではないので」
目を伏せた私の髪に、辰巳さんが手を伸ばす。
内心、ギクリとしていると、冷たい手が髪を撫でた。
視線を上げると、微笑んでいる瞳と目が合う。
「構わないよ。もし、彩月がいいなら朝ごはんも俺が作るから、彩月はたっぷり寝ていていいよ」
「そんな……さすがにそこまではお願いできません」
どこまでも甘やかそうとする辰巳さんに笑顔を返していると「ところで、彩月」とひとつトーンの下がった声を出される。
「あのカップ、二客出てるけど、誰か来てたの? 水がついてるし洗ったばかりだろ?」
辰巳さんとの会話のなかに、本当になんでもないように爆弾が仕掛けられている。
それに気付く度に、ギクリと心臓が音を立て耐え切れないほど重たい緊張がその場を支配する。
もう、何度味わったかわからないスリルを感じながら、笑顔を作った。