過保護な御曹司とスイートライフ
遮光性の高いカーテンの隙間から明かりが差しこみ、朝を知らせる。
暗い部屋のなかを細い光の線が走る様子を眺めてから、上半身を起こす。そして、隣で眠る人に視線を落とした。
コンタクトをしていないせいで、ぼんやりとしか顔が見えないその男の人は、名前を〝成宮〟というらしい。
黒髪は、男の人にしては長めだろうか。視力の問題で顔立ちまではよくわからないけれど、身体付きはガッシリとしていて、キスはうまいと思う。……たぶん、それ以外も。
私にジロジロと見られているとも知らずに呑気に眠る成宮さんとは、昨日の夜が初対面で……正真正銘、私が逆ナンした相手だった。
「……おはようございます」
そう呟いてから、大きなベッドを抜け出し、床に落ちている服を拾い着る。
衣擦れの音で成宮さんが目を覚まさないかドキドキしたけれど、そんな心配は無用だったらしい。
面倒くさがって立ったままストッキングをはいたせいでよろけて棚にぶつかってしまったっていうのに、成宮さんはその音にも気付かずスヤスヤ寝たままだった。
よほど疲れているんだろうか。
一応、呼吸していることを寝息で確認してから、洗面台の前に立ち鏡を確認する。
鏡の中には、昨日となんら変わらない自分が映り……そこにホッとしているのか、ガッカリしているのか、どっちつかずの感情が湧きあがった。
二重の大きい瞳に、小さな鼻と薄い唇。夜道を歩いていると気味悪がられるほどに白い肌。肌同様、色素が薄い、ボブカットの茶色い髪。
以前は下ろしていた前髪は、運気が上がるという記事を信じて、左に流してみたけれど……実際、幸運が舞い込んできたかはわからないまま一年が経った。
「経験しても、変わらないものなんだなぁ……」
もう、〝大人〟になったハズなのに。
私を縛る鎖はなにひとつ変わらない。
でも、そんな変化が目に見えたらちょっと問題だしそりゃそうか、と自分自身に折り合いをつけてから、バッグを持ちドアに向かい……そして、一度だけ振り返る。