過保護な御曹司とスイートライフ
「サボり癖があると思わないでほしいんですけど……実は、一昨日と昨日、洗うのが面倒くさくてそのままにしてしまってたんです。
さっき、辰巳さんが来る前に急いで洗い物を済ませたので、それで」
うかがうような表情を作り、「呆れましたか?」と聞くと、辰巳さんはふっと口元を緩ませる。
「いや。彩月だって働いているんだし当たり前だよ。今度からは俺が来るからって気を遣わなくていいよ。疲れているなら俺が代わりに食器くらい洗うから」
付き合いは長年になるから、辰巳さんの作りだす緊張感は何度も経験している。
だから、この人の機嫌の取り方も、もうお手の物だ。
私がどう立ち振る舞えばご機嫌になるのか。ずっと辰巳さんを含め、両親の顔色をうかがいながら過ごしてきたから知っていた。
「ありがとうございます」
水曜日の十九時。土曜日の八時半。
辰巳さんは必ず同じ時間にこの部屋に顔を出す。
それはまるで私を監視するように。
ひとり暮らししたいという私の希望を後押ししてくれたのは辰巳さんだったけれど。
自由なはずなのに、まるで、見張りつきの監獄にでも閉じ込められた気分だ。