過保護な御曹司とスイートライフ
父親から辰巳さんを紹介されたのは、小学校のとき。
父親が代表を務める会社が開いたパーティーでだった。
長い間役員を務めていた人の娘さんが結婚するってことで催された披露宴パーティーは、結婚式場で行われた。
まだ十歳にも満たなかったけれど、そのときのことは鮮明に覚えている。
目をつぶれば、すぐにあのときの光景が浮かぶようだった。
『そんな……だってシロは、ただ俺たちを守ろうとしてくれただけなのに、なんで……』
あの時の辰巳さんの顔も声も、今もこの胸に残っているから。
――あれはたしか、十五年ほど前のことだ。
白を基調とした造りの会場は二階まで吹き抜けていて、天井がとても高かった。
大きくくり抜かれた窓からは太陽の光が明るく差し込み、神聖な雰囲気が場内を包んでいる。
集まった招待客は百人以上で、スーツやドレスで着飾った大人がたくさんいる中、小さな私は居場所がなく退屈だった。
一緒にきた両親は、大人同士、こんなお祝いの場だっていうのに仕事の話をしているみたいだし、私と同じくらいの子も見当たらない。
淡い水色のドレスを着せてもらったときにはとても嬉しくてワクワクしていたのに、そんな気持ちももう見当たらなかった。
『……つまんない』
尖らせた口から独り言をもらし、そのまま場内をウロウロする。
ウエディングドレスに身を包んだ花嫁さんを見たり、バイキング形式になっているデザートを眺めてみたり。
でも、それも飽きて、大きな窓から中庭に視線を移したとき。
そこに、沈んだ表情を浮かべる男の人がいるのを見つけた。
大人とは違って制服を着ているその人は、さっき、スーツ姿の男の人となにかを話していた人だとわかった。
会場内で高校の制服を着ているのは、その人だけだったから。