過保護な御曹司とスイートライフ
『そんな……だってシロは、ただ俺たちを守ろうとしてくれただけなのに、なんで……』
悲しそうな顔をした男の人が唇を震わせて言った言葉に、相手の人は『仕方ないんだ』とだけ言い、肩をポンと叩いていたのを、さっき会場前で見ていた。
わずか三十分ほど前のことだ。
他の大人よりも自分に近い気がして、この退屈をどうにかしたくて、私はすぐに中庭と会場内を繋ぐ通路に向かった。
招待客の間をすり抜けて外に出ると、春の気持ちいい風が頬を撫でる。
中庭にある桜の木からは、はらはらと桜の花びらが水色の空を舞い、黄緑色の芝の上に落ちていて、とても幻想的に見えた。
そのなかでひとり、なにか思い詰めたような顔で空を見つめている、制服姿の男の人にそっと近づく。
中庭は、学校のプールくらいの大きさがあった。
その端っこに立つ男の人の横顔はとても整っていて……そしてとても、寂しそうだった。
近づいてはみたものの、その人が纏う雰囲気があまりに独特で足を止める。
澄みきっているようでいて深い。きれいなのに闇みたいで……どうしていいのかわからず、ただその横顔を眺めるしかできないでいたとき、男の人がこちらを向いた。
思わずビクッと肩をすくませると、男の人はにこりと柔らかく微笑み、片膝を芝につき、視線を合わせてくれた。
『どうしたの? たしか、鈴村さんのところの……お名前は?』
優しい声だと思った。
今までまとっていた雰囲気なんて嘘みたいに、明るく話しかけてくれる男の人に安心して答える。