過保護な御曹司とスイートライフ
『彩月。お兄さんは?』
『俺は、辰巳柊哉。彩月ちゃんのお父さんの会社の取引先……って言ってもわからないか。彩月ちゃんのお父さんと俺のお父さんが知り合いなんだ』
『そうなんだ。……それ、カッコいいね。灰色の』
制服を指しながら言うと、辰巳さんは『ああ、これ?』と笑う。
『俺の学校に行けばみんなこれ着てるよ。女の子は、チェックのスカートだけど』
薄い灰色のブレザーに赤いネクタイ、そしてワインレッド系のチェックのズボンは、春空にとても映えて見えて、他の人が着ているスーツよりもカッコよかった。
辰巳さんの顔立ちが整っているせいもあったのかもしれないけれど。
『さっきの、〝シロ〟って誰?』
私が聞いていたとは思わなかったんだろう。
辰巳さんは小さな私から見てもわかるほどに、一瞬驚き……それから眉を寄せ微笑む。
『俺の家族、かな。両親も同じように思ってくれてると思ってたんだけど……違ったみたいだ』
『どうして?』と聞いた私に、辰巳さんはゆっくりと教えてくれた。
シロという犬を飼っていたこと。シロを辰巳さんも両親も家族だと思ってたこと。シロが回覧板を持ってきた近所の人を噛んでしまったこと。
学校から帰ったら、シロが保健所に連れて行かれたあとで……殺処分することにしたと両親から聞かされたこと。
『家族だって言ってたくせに。自分たちの立場を守るためなら平気で殺す。
結局、弱い者が被害者になるんだって思い知った。たとえば、俺が犯罪に手を染めたら、実の息子の俺でも切り捨てるんだろうな』
シロを飼い続けることは、望めばできたらしかった。
でも、怪我をさせてしまった以上、近所の人たちはそういう目で見てくる。シロだけじゃなく、辰巳さんたち全員を。
それに耐えられないのもあったし、シロを殺処分することで辰巳さんの両親は自分たちの立場を守ったらしかった。