過保護な御曹司とスイートライフ
『周りに白い目で見られたとしても、家族なら乗り越えて行けるなんていうのは、甘い考えなのかな。シロは……本当ならまだ生きられたのに。俺たちが守ってやらなければならなかったのに。
家族に殺されたシロは……どれだけ悲しかっただろう』
悲しい瞳は空に向いていて、きっとそこにシロを思い浮かべているんだろうっていうのが幼心にわかった。
悲しいのに、それでも口元には笑みを浮かべている辰巳さんが可哀想で……気付いたらその手に触れていた
悲しみが伝線したのか、ポロポロと涙をこぼす私を辰巳さんは驚いた顔で見てから『ありがとう』と微笑んで……。
そして、その瞳から一筋の涙を流した。
きっと、辰巳さんが抱えた悲しみは私が想像する以上のものだったんだろう。
それでも、決して崩さなかった柔らかい微笑みと、辰巳さんの向こうに見えた透き通るような青空を今でも覚えている。
……ああ、そうだ。あの頃はまだ、辰巳さんの笑顔に温度もあったっけ。いったい、いつから――。
「……懐かしい夢」
ベッドの上。ぼんやりと天井を眺めているうちに、携帯のアラームが鳴るから手を伸ばし止める。
それからムクリと身体を起こした。
まだ薄暗い部屋に、カーテンを開けて明かりを取り込む。
昇ってきそうな朝日を眺めながらひとつ背伸びをする。
ずいぶん、懐かしい夢を見たなぁ……と考えながら出社するための準備を始めた。