過保護な御曹司とスイートライフ
朝食を済ませて、着替えて部屋を出る。
会社までは電車で六駅。最初は苦手で仕方なかった満員電車も、今では日常となっていた。
眩しい朝の太陽を感じながらアパートの外階段を下りる。
ヒールだと足音が響いてしまうから、ゆっくりとそっと……と意識しながら階段を下りきると、いつもはない場所に車が停まっていることに気付く。
黒いレクサス……と思うと同時に、金曜日の夜のことが頭を過ぎりハッとした。
ナンバーまでは覚えていない。でも……。
確信までは持てずにいると、そのうちに後部座席のドアが開き、予想通りの人物が出てきた。
右眉の上でわけられた黒髪は自然に流されていて、わずかに整髪料も使っているようだった。無造作だけど、ぼさぼさなわけじゃなくきちんとしていて清潔感がある。
きりっとした眉に、奥二重の形のいい瞳。スッと通った鼻筋に、微笑みを浮かべる口元。
金曜日も土曜日も、コンタクトをしていなかったから、顔立ちをしっかりと見たのは今が初めてだったけれど……その整った外見に言葉を失ってしまう。
でも、同時になんとなく見覚えがある気がして、あれ?っと思う。
俳優やモデルに似ている人がいただろうか……と考えていると、車を降りた成宮さんがこちらに近づいてきた。
目の前に立たれて、身長差や身体の大きさを感じ、ああ、やっぱり成宮さんだと確信した。
「よう。これから仕事だろ? 送ってくから乗れよ」
立てた親指で軽く車を指す成宮さんに、「いえ。結構です」と答えると、首を傾げられる。
「なんで? この時間帯って通勤ラッシュなんだろ? 絶対車の方が楽だと思うけど」
本当に不思議そうな顔で言われ、「それはそうですけど……」と口ごもるしかできなかった。