過保護な御曹司とスイートライフ
この間も思ったけれど、成宮さんは悪気がないというか、やけに純粋だから調子が狂う。
〝晴れてるのに外で遊んじゃいけないの? なんで?〟とまるで小学生が聞くように、こんな、心からの疑問みたいに『なんで?』と言われても、困ってしまう。
「ああ、遅刻するんじゃねーかって心配してるのか。だったら問題ない。時間までに必ず会社に送り届けるから」
最後に「約束する」と口元を緩められれば……なんだかもう、自分自身、なんで断っているんだろうと思えてきてしまう。
完全に拍子抜けだった。
「じゃあ……お願いします」
「ああ」
まぁ、出社時間には余裕を持って出てきているし大丈夫だろう。
それにこの人には借りもある。
結局、封筒に入れた五万円は受け取ってもらえていないし……最悪、欠勤の連絡を入れれば済む話だ。
同僚の矢田さんには迷惑をかけてしまうけれど……と、考えながら車に乗ると、成宮さんも反対側から乗り込んでくる。
「時間に間に合うように適当に走らせられるか?」
「はい」
運転手さんが返事をするのを聞きながら、シートベルトを締める。
ルームミラー越しに目が合った男性は、髪がロマンスグレーに染まったおじ様で、にこりと細められた瞳に優しそうな印象を受けた。
しかし、運転手さんがいるなんて一体どういう立場の人なんだろう。
土曜日にもちらっと浮かんだ疑問を再度浮かべていると、成宮さんに話しかけられる。
「土曜日、俺が部屋を出て少し経ってから男が訪ねて行ったろ。結構年上に見えたけど、兄貴かなにかか?」
窓の外に視線を向けたまま聞かれ、どう答えようか迷う。
車は会社の方面に走っているようだった。
膝の上で、両手をいじりながら口を開く。