過保護な御曹司とスイートライフ
大きなベッド。十人近く座れるんじゃないかってくらいに大きい、コの字型したソファ。窓際にある、四角いテーブルと、二脚の椅子。
何十インチあるのかが疑問の壁かけの液晶テレビ。きっと、高いであろう、よくわからない絵画。
この広い部屋代は、ベッドサイドのテーブルに置いたお金で足りるんだろうか……と少し不安になる。
しかも、ここはホテルの最上階だ。昨日、連れてきてもらったとき、成宮さんの指が〝36〟の数字を押すのを見ていたから、覚えている。
それ以上の数字は操作盤になかった。
こんな部屋で初体験を済ませられた私は、幸運なんだろうなぁと思い、左に流した前髪を思い出す。
こんなところで効果を発揮してくれたらしい。
前髪の間からのぞくおでこを触りながら、ふっとひとりで笑いベッドに視線を移す。
弱い視力でぼやけている視界。
まだすやすやと寝ている成宮さんに「さよなら」と呟くように言ってから、部屋を後にした。
成宮さんと出逢ったのは、昨日の夜。逆ナンを試みているときだった。
道端で男性に声をかけようと意気込みながらも尻込みして、そのうちに知らない男性にナンパされ、困っていた。
男性のほうからきてくれるなんて願ったり叶ったりのハズなのに、あまりにグイグイこられたら怖くなってしまって……。
『あの、私みたいな地味な女で遊んでもつまらないと思います』
『えー? たしかに地味は地味だけど、肌とかすげー白いし、素朴で可愛いじゃん。俺、全然いけるから大丈夫』
『そうですか。でも遠慮します』
内心焦りながらそんな押し問答をしていたとき助け船を出してくれたのが、成宮さんだった。