過保護な御曹司とスイートライフ


「私自身、そこまで恋愛に夢見るような性格でもなかったので……まぁいいのかなって、その時は思ったんです。思わざるをえなかった空気だったっていうのもありますが……それでも、自分の意思でうなづいたつもりでした」

成宮さんはしばらく黙ったあと「中学生にひどい選択させるな」と呆れたような声で言う。
それに、ふっと笑みをこぼしながら続けた。

どうせ成宮さんとはそうそう会うことはないんだし、隠しておくつもりもなかった。

「辰巳さんは悪い人ではないんです。私のことも大事にしてくれていると思いますし。でも、やっぱり自分の中で消化できていない部分はあって……このまま結婚したら全部が両親の敷いたレール上なのかなって思ったら、急に窮屈に感じてしまって。
それで、最後にイケナイことしようと思ったんです」

辰巳さんとの婚約を呑み込むと同時に、私は反抗期まで押し込んでしまったようで、両親に逆らったのなんて小さな頃だけだ。

中学に上がってからは望まれるままにしてきた。今勤めている会社だって、父が勧めたからだ。

『名の知れた大企業で働いたという実績があれば、結婚式のとき鼻が高い』という、呆れてしまうような理由だったけれど、大きな企業で自分磨きをしてみたいと私も思ったからうなづいた。

実際、今の会社でよかったと思う。先輩にも恵まれたし、仕事もこのまま続けていきたいと思えるほど楽しいしやりがいも感じている。

でも、ここ最近、両親からやたらと出てくる〝結婚〟の単語は、ずっと仕事を続けることを許してはくれなそうで、それが嫌だった。

私は、順調な仕事さえ周りに言われるまま手離さなくちゃならないのかって考えたらとても理不尽に思えてしまって、だからといって逆らうこともできない。

我慢の仕方は何度も教えられたけれど、逆らい方は誰も教えてくれなかったから。

だからなのか。我慢し続けたものがついに破裂したからなのか。とにかく、こんな風に全部がレール上なのが突然嫌になってしまい、なにかひとつ、大きく裏切ってやろうってそう思った。

それを実行したのが……。


< 30 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop