過保護な御曹司とスイートライフ
「……それが、金曜日のアレか」
わずかに呆れたような笑みで言われうなづく。
「はい。すごくドキドキしました」
逆ナンは結局できなかったけど、道行く見知らぬ男性に声をかけようとあの場所に立っていただけで緊張して足が震えたし、成宮さんとのことだって……とてもドキドキした。
非日常的な私の知らない世界が、金曜日の夜には確かに広がっていた。
だから、ふふっと笑うと「……いや、嬉しそうにされてもな」と呆れたような笑みを返された。
「でも、そう思い立って本当に実行するとか……おまえ、結構危なっかしいヤツだな」
ふっと、柔らかい微笑みをこぼされ……トクンと胸が鳴ったのを感じた。
それは、成宮さんがあまりに自然な笑顔を浮かべたからで、からっとした明るさに、気付けば目を奪われてしまっていた。
なんて素直な笑顔をする人なんだろうと見入っていると、成宮さんが不意に笑みの浮かんだままの瞳で私を見るから、ドキッと大きく胸が跳ねた。
「おまえのなかでは、逆ナンが〝イケナイこと〟だったわけか」
「……まぁ。だって犯罪にならないことでイケナイことなんて、ベロベロに酔っぱらって電柱に登っちゃうか、知らない異性と一晩過ごすかくらいしか思いつかなくて」
「どっちにしろ危ねーよ。……本当、よかった。あの時、車止めて」
やれやれとでも言いたそうな顔で言われ、首を傾げたくなる。
別に私がどうなろうが成宮さんには関係ないのに、なんで心配しているんだろうって。
でも、さっきの無邪気な笑顔を思い出し、きっと人がいいんだろうと納得していると、成宮さんが「で、〝イケナイこと〟はもう続けないのか?」と聞いてくる。
わずかに浮かべている笑みは、さっきまでの明るさ100%のものとは違い、少し悪そうに見えた。