過保護な御曹司とスイートライフ
「まぁ、そんなことがあったから俺は金曜日、声かけた時には鈴村のこと気付いてた。鈴村だって知った上で俺が選択したことだし、おまえが謝ったり気にしたりする必要はなにひとつない」
きっぱりと言い切った成宮さんが「だから、今日の作戦はそのまま決行な」と含んだ笑みを浮かべる。
まるで決定事項のように言ったのは、私の気持ちが揺らいでいることを、成宮さんが気付いていたからかもしれない。
だって、さすがに副社長の家にお世話になるなんていうのは社員としておかしい。
朝の状態なら、もう身体の関係にもなっちゃったわけだし失うものなんて何もないと判断して、ついワクワクする胸に負けてうなづいてしまったけれど……相手が同じ会社の副社長とわかれば話は別だ。
残念だけど……この冒険は出発する前に諦めるしかない。
そう思い、断るために視線を合わせると、成宮さんが一足先に口を開く。
「受付にいる〝魔物〟についてはちょっとわからねーけど。おまえにとっての魔物は、あの部屋と家族と……あと、あいつなんだろ?」
確信したような言い方をする成宮さんに言葉を呑む。
心臓がギクリと音をたて、図星だと告げていた。
〝そんなわけないじゃないですか〟という言葉は声にならずに、会議室の床に落ち消える。
魔物……なんだろうか。あんなに優しい人がそうだとは思えないけれど、ドクドクと鳴る心臓はまるでその通りだと主張しているようだった。
いつか聞いたことがある。人間は、考えて行動しているわけではなく、行動が先立ってその理由をあとから頭で考えているって。
だとしたらこれは……反応している心臓が正しいってことなんだろうか。
じっと見透かすように見てくる瞳に耐えきれなくなり、わざと笑って見せた。
「どうでしょうね。もう……わかりません」
誤魔化そうとした私を尚も見つめてくる強い眼差しは、胸に直接訴えてくるような純粋さがあるように思えた。