過保護な御曹司とスイートライフ
オートロックのドアを目の前にして、成宮さんが立ち止まる。
両手が塞がっているから代わりにってことなんだろう。
スーツのポケットかな?と思いながら答えを待っていると、「たぶん、ケツのポケット」と言われ、出しかけていた手がピタリと止まった。
「……え? ケ……お尻の……?」
「右だと思うんだけど」
「……お尻に触ることになるんですけど」
「問題あるか?」
キョトンと聞かれ、う……と困る。
例えば恋人同士や兄妹だったら、お尻だろうがどこだろうが、ポケットになんてズボズボ手を突っ込めちゃうのかもしれないけれど、つい先週初体験を済ませたばかりの私にはハードルが高く感じた。
辰巳さんとは婚約者という関係ではあるものの、手をつなぐことすらしたことないし、私の恋愛的経験は金曜日の夜だけとなる。
そんな私に異性のお尻のポケットを弄れなんていうのは……難易度が高すぎる。
それでも、荷物を持ってもらっている手前、断ることなんてできないから……意を決して手を伸ばす。
「失礼します……」という声がわずかに震えてしまっていた。
「……ないですけど」
なるべく早く済ませたくて、ためらいを捨てて探ってはみたけれど、ポケットに鍵はない。
だから言うと、成宮さんは「ああ、じゃあ胸ポケットだ」と次の指示を出し……それから、吹き出すように笑った。
「おまえさ、ケツのポケットくらいでそんな身構えるなよ。これから一緒に暮らすって分かってんのか?」
おかしそうに笑いながら言われ、ムッと口を突き出す。
「もしかしなくても、わざと違うポケット教えてお尻触らせましたね」
「いや、だって、全然男慣れしてなさそうだったから、試してみたくなって……悪かったって。ごめん。ほら、鍵とって」
まだクックと喉で笑っている成宮さんをギッと睨み上げてから、荒々しくズボッと胸ポケットに手を突っ込む。
私に合わせて少し屈んでくれたおかげで、楽々と鍵をとることができた。