過保護な御曹司とスイートライフ
「寝室は向こうだから、とりあえず鈴村の荷物はそっちに……」
「私の荷物よりも先に、まず成宮さんの荷物を片付けましょう」
「……俺の?」と顔をひきつらせる姿に「まさかずっと段ボールに囲まれて暮らすつもりですか?」と聞くと、さすがにそんな気はないのか、もごもごと口を動かされる。
「それは嫌だけど……でもこれ、一日で片付く量じゃねーし」
まるでこどもの言い訳のような口調に「三十歳がなに駄々こねてるんですか……」と冷たい眼差しで言ってから、ひとつ息をついて気合いを入れる。
早く取り掛からないと、本当に今夜だけじゃ終わらなそうだ。
「段ボール生活が嫌なら、さっさと片付けましょう。もちろん、私も手伝いますから」
ぐっと腕まくりをしながら言うと、成宮さんは諦めたように笑ったあと「はいはい」と返事をして私の荷物を床に下ろした。
「本関係は全部そこの棚でいいんですか?」
「ん? あー……そうだな。順番は適当でいいから」
片づけを始めて一時間。段ボールは半分以下に減っていた。
開けてみればほとんどが服関係だったから、それは寝室の大容量のクローゼットにしまい、丸めたままだった黒いカーペットも床に敷いた。
私が想像したとおり、端はぺろんと丸まったクセがついてしまっていたけれど、成宮さんは気にしないらしい。
『まぁ、時間が経てば直るだろ』と笑える大らかさは、私や、家族、そして辰巳さんにはない部分だけど……嫌だとは思わなかった。
小さいところに囚われない性格は、一緒にいてとても楽で、何年も前から一緒にいる辰巳さんといる時よりも楽で、それが不思議だった。
金曜日の夜初めて逢った人なのに……私がワクワクしすぎてアドレナリンでおかしくなっているのか、成宮さんが場を和ませるような特殊能力があるのか。
両方かな、と考えながら窓とは逆側にある壁に埋め込まれている棚に本を詰めていく。
段ボールに入っているのは、ほとんどがコミックだから、それを巻数を揃えながら並べていく。