過保護な御曹司とスイートライフ
成宮さんが困り続けて、数十秒経ったところで、『やっぱりいいです。突然すみませんでした』と頭を下げた。
いくら直感があったからって、こんなに困らせて持って帰ってもらうのは申し訳ない。
私が絶世の美女だったら、あとひと押しどころか、ふた押しでも三押しでもいけるんだろうけれど、残念ながらそうではない。
『いいって……』と呟く成宮さんの言葉にかぶさるようにして言う。
『困らせてしまっているようですし、他をあたります。本当にすみませんでした』
『他って?』
『逆ナンします』
ハッキリと答えたのに。成宮さんは、数秒黙ったあと、ははっと笑い出す。
『ナンパされてあんなに腰が引けてたヤツが、逆ナンなんかできるわけがないだろ』
おかしそうに言われ、事実なだけに眉を寄せる。
『できます。ただ、ああいう風にガツガツこられるのが苦手なだけで、私だって逆ナンくらい華麗に……』
『いや、できないって。見てたらわかる』
キッパリと言われて驚く。
そこまでそういう行為に慣れてなさそうなんだろうかと自問自答し……まぁ、そうかもしれないなと思った。
だって、何を隠そう、こんなことこれが初めてだ。
かれこれ一時間、立ったまま逆ナンするタイミングを計っていたけれど、結局誰にも声をかけられずにいる。
そこをナンパされて、困っていたところを成宮さんに助けられたのだから、〝無理だ〟と断言されてしまうのも当たり前だった。
『慣れないことをしてるってことは、なんかワケありか?』
『……はい』
『それって、今日じゃなきゃダメなのか?』
低く柔らかい声に問われ、『はい』とうなづく。
そう、今日じゃなきゃダメだ。
私は今日、覚悟を決めて、自分の人生をかけてここに立ったんだから。