過保護な御曹司とスイートライフ
――そういえば。
辰巳さんもいつも穏やかな表情と声色でそれを崩さないから、そこに当てはまる部分があるかもしれない。
辰巳さんも成宮さんほどじゃないにしても大きな企業の跡取りだし、だとしたら小さな頃から感情を表に出さないように教えられてきたんだろうか。
あの、いつだって優しく細められている瞳を思い出すとゾクリと背中を冷たいものが走った。
あんなに優しい辰巳さんに、なんで怖さを感じるんだろう。あの笑顔の裏に、なにか別の感情が隠されているように感じるのは、私の気のせいだろうか。
あの人から注がれる情は大きくて深いから、正直、私はそれを持て余してしまっているし、想いを返せていない。
そんな私に気付いた上で『彩月が幸せなら俺はそれでいい。問題ないよ』とニコリとする辰巳さんは、じゃあなにを望んで私の傍にいるんだろう――。
「俺も聞いていいか?」
不意に聞かれ、ハッとして顔を上げる。
「あ、はい」
成宮さんは一際大きな段ボールの中から、ボックスティッシュやトイレットペーバーといったものを取り出していた。
どうやらあの段ボールの中には生活消耗品が入っているようだ。
私も、残り二十冊ほどとなった漫画に手を伸ばす。
高級マンションだけあって、隣の部屋や共通通路からの音は少しも聞こえてこなかった。
「鈴村は、自分の未来を諦めてまで両親の望みを聞こうとしてるだろ。そこまでする理由ってなに?」
『私の父親と辰巳さんのお父さんは仲がいいんですけど、話しているうちにそういうことにまとまったらしくて。全部が全部、決定したあとの事後報告だったので……嬉しそうにしている辰巳さんのご両親を前に嫌だなんて反対はできませんでした』
今日の朝、車のなかで話したことを覚えていてくれたのか……と思いながら口を開く。