過保護な御曹司とスイートライフ
「私が中学に上がる頃までは経営難だったって話しましたけど。やっぱり、仕事がうまくいっていないと家庭内も同じで……両親は顔を合わせれば怒鳴り合ってました。
止めに入った時、父親に手を振り払われて怪我をしたこともありました」
成宮さんが心配して息を呑んだのがわかって、慌てて笑顔を作る。
「たいした怪我じゃなかったんです。ただぶつけた頭を少し切ったくらいで。ほら、全然目立ちませんし」
前髪を手で持ち上げおでこを見せ笑う。
こめかみの上、髪の生え際のあたりに残った傷は、自分でも探してやっと見つけられる程度の小さなものだ。
「そんな両親が、会社が立て直したらケンカしてたのが嘘みたいに仲良くなって。私、すごくホッとしました。元のふたりに戻ったみたいで嬉しかった。
その頃には私も中学生だったので、会社経営が傾けば家庭がピリピリしちゃうのも分かってたから、あの数年は仕方ないことだったんだなって納得できてました」
指先で前髪を整えてから、漫画を並べていく。
壁一面に埋め込まれた棚は本や小物が置けるスペースと、恐らくテレビやレコーダーを置くスペースに区切られていて用途がよさそうだった。
「辰巳さんを紹介されたのは、家のなかの雰囲気が穏やかになって一ヵ月も経たないうちでした。そこにいる私以外全員が嬉しそうに笑ってて……もしも私が断ったら、両親がまた不仲になってしまうような、そんな危機感を持ってしまったのかもしれません」
あの時の光景は、今でもハッキリと覚えていた。
客間のソファに座る両親と、辰巳さん、そして辰巳さんのご両親。
楽しそうに、嬉しそうに話された内容には正直戸惑いしか浮かばなかったけれど、うなづく他なかった。
瞬間的に断ったらどうなるのかを考えると、治ったはずの頭の傷がズキンと主張するように痛んだことも、その痛みもまだ忘れられない。
その痛みに〝断っちゃダメだ〟という意識が働き……辰巳さんとの婚約にうなづいた。