過保護な御曹司とスイートライフ


こんな風に背中を押されたのは初めてだった。
いつだって私の道は決まっていて、足に巻き付けられたロープを辿るだけだったから……足枷もなにもない、道もない場所で、ポンと優しく押された背中に急に胸が弾みだす。

成宮さんは段ボールをベコッと音を立てて畳みながら「まぁ」と、話す。

「最終的にはおまえが決めることだけど。この一ヵ月で、なんか見つかって気が楽になるといいな」

目の前に広がる、一ヵ月の自由。
その真っ白な空間にはレールも鎖もなくて……ただ、成宮さんの言葉や明るい笑顔が追い風みたいにふわりと背中を押してくれていた。

〝なんか見つかって気が楽に〟なんて、漠然もいいところだとも思うけれど、無責任だとは感じなかったし、とても耳触りのいい言葉に聞こえた。

「よし。これで段ボール系はおわりだな。あとは食器か」

平たく潰した段ボールをまとめて壁に立てかけた成宮さんが、ひとつ伸びをしながら部屋を見渡す。

成宮さんに倣って部屋を見渡すと、白い段ボールはすっかり姿を消し、その分、スペースが広がっていて広い部屋がより広く感じた。

らくらく四人は座れそうな黒い革のソファに、ガラス天板のローテーブル。その下に敷いてある毛足の長いカーペットの端はくるんと丸まっているけれど、重厚感漂う部屋がそこにあった。

成宮さんがシステムキッチンの吊り度を開けるから、私もその隣に並び手伝うことにする。

「結構食器あるんですね」

二、三人分くらいの食器の枚数があるから不思議に思っていると、「あー、百均でそろえた」と意外な返事をされた。

「……行くんですね。百均とか」
「普通に行くだろ。安いしなんでもあるし。食器関係も、このマンション借りた時にテンションあがって色々買ったんだけど……まぁ、結局まだ使ってねーな」

「食器買うってことは自炊もする予定だったんですね」

私が手渡した食器を受け取る成宮さんの指は節くれだっていて無骨で、いかにも男って感じの手だ。

この手で料理を作るのか……と眺めていると、成宮さんが苦笑いをこぼす。




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