過保護な御曹司とスイートライフ
「うちの会社に知り合いがいない限り事実なんてわかんねーし、一ヵ月の長期研修があるって言い切れば問題ないだろ。研修施設ならあるし、社内のレベルアップを図るための初めての試みとでも説明すれば、婚約者も怪しんでも嘘だとは言い切れない」
「まぁ……それはそうかもしれませんけど」
「出張でもいいけど、国内で一ヵ月ってなると、さすがに嘘くさいからな。その点、研修だったら資格取得のためだとかいくらでも理由づけできるし」
事実、海外出張のある部署もあるし、その人たちにしてみれば一ヵ月の出張なんてそこまで珍しい話じゃない。
でも国内なら、たしかに研修にした方が納得するかもしれない。新人研修だって二週間あったんだし……そのことは辰巳さんも知っているから、一ヵ月っていう期間ももしかしたらすんなり受け入れてくれるかもしれない。
「じゃあ……メールしてみます」
最後の一枚になった食器を手渡しながら言うと、成宮さんも「それがいい」と同意する。
バッグの中から携帯を取り出し、宛先に辰巳さんのアドレスを呼び出す。それから短い文章を作成して、わずかな緊張を覚えながら送信した。
【急なんですが、仕事の関係で期間が一ヵ月ほどの研修に行くことになりました。その間、研修施設に泊まることになります。部屋を空けますが、心配しないでください】
あまり詳しく書いても嘘がバレそうに感じ、文章は簡潔にした。
液晶画面の右上にあるデジタル時計は、二十二時過ぎを示しているし、仕事が忙しい辰巳さんでもこの時間なら……と思っていると、手の中で携帯が震え出す。
ビクッと肩を跳ねさせてから視線を落とすと、ブルブルと震える携帯は辰巳さんからの着信を知らせていた。
仕事が終わってるかもしれないとは思った。それにしても……早い。