過保護な御曹司とスイートライフ
チラッと視線を移すと、成宮さんはこちらをじっと見ていて……その視線に励まされるようにひとつ息を吐いてから電話をとった。
「はい」
『俺だけど、今は仕事中? 電話していても大丈夫かな』
「……大丈夫です。もう、施設に戻ってきたところなので」
『そう。よかった。施設って、彩月の会社が持ってる研修施設? たしか、去年も一度、行ってたよね。そのときは一週間くらいだったけど』
よくそこまで覚えてるな……と感心すればいいのか、怖がればいいのかわからなくなりながらもうなづく。
邪魔しないようになのか、成宮さんがリビングから出ていくのを視線で追いながら答える。
「そうです。今回はそれが一ヵ月で……。突然ですみません」
『いや、大変なのは彩月の方だし、俺にまで気を遣わなくていい。まぁ、正直に白状すると少し寂しいけどね。……研修施設の部屋って広い?』
ひとつトーンを下げたような声に問われ、心臓がドクッと緊張の音を立てる。
怪しまれているのが声や口調からわかったから、気持ちを落ち着かせて答えた。
「広くはないですね。アパートの部屋の方が広いかなってくらい。キッチンがないから自炊もできないし、食費がかさみそうです」
『あれ。彩月の会社、あんなに大きいのに研修費として出してくれないの?』
冗談みたいに言われるから、まさかと首を振った。
「交通費は出ますけど、さすがに食費までは。……でも、それが普通です。社員にいい顔ばかりしてると、十年前のうちの会社みたいになっちゃいますから」
うちの会社の経営が傾いたのは、父親が社員にいい顔をしすぎたからだと、いつか母親が言っていたのを思い出す。
出張となれば、交通費から宿泊費、食費と上限を決めずに大盤振る舞いだったらしいから、その話を今思い出すと、経営も傾くだろうなぁと私でも思ってしまう。
とにかく家族以外に対していい格好がしたい人らしいから、母親はそれであんなにも目くじらを立てて、いつもケンカになっていたのかもしれない。