過保護な御曹司とスイートライフ
「はい。少し疑ってはいるみたいでしたけど、とりあえずは……あの、手にすごく泡がついてますよ」
「ああ、風呂掃除してたから。あと五分くらいでお湯が溜まるからそしたら入れ。バスタオルも出してある。
おまえ、パジャマとか持ってきた? ないなら俺の適当に……あれ。ああ、そっかクローゼットに全部片付けたんだっけ」
寝室のクローゼットを覗きに行こうとする成宮さんを「大丈夫です。持ってきてます」と、手首のあたりを掴んで止める。
そして、そのまま「ちょっと、こっちきてください」と洗面所まで連行した。
それにしても……太い腕だなと思う。私の手じゃ、手首すら掴み切れない。
「なに?」
「だから、泡がついてるんです。なんでこんなもこもこ泡つけたまま部屋を歩き回れるんですか……」
呆れながら洗面所の水を出し、成宮さんの腕についていた泡を落とす。
五畳くらいありそうな大きな洗面所の床は白いタイル張りで、他の部屋や廊下とは雰囲気が違っていて明るい。
半透明のドアを挟んだ向こう側の浴室からは、バスタブに溜まっていくお湯の音が聞こえていた。
浴室のドアの横についている操作盤には、浴室乾燥以外にも、暖房や冷房、送風といくつもボタンがあり、すごいなぁと眺めているうちに、お風呂が沸いたことを知らせる音楽が聞こえてきた。
そんな電子音さえ、穏やかで優しい音色に聞こえたのは、成宮さんが一緒だからだろうか。
一緒にいると、なぜだか元気になれる。
不思議なひとだなぁと、横顔を眺めた。
何も食べていなかったことに気付いて、コンビニで買ってきた軽食を適当に食べてから順番にお風呂を済ませる。
コンビニに行ったとき、ついでに歯ブラシとか洗顔も買ってきたけれど、シャンプーとリンスだけは浴室に置いてあった成宮さんのを使わせてもらった。
そして、「じゃ、寝るか」と言う成宮さんにうなづいたものの……ふと、疑問が浮かんだ。
さっき荷解きしたときには、寝具関係はなにも出てこなかった。ということは、この部屋で眠れる場所は寝室にあるベッドだけだ。