過保護な御曹司とスイートライフ
「俺、そういうの気にしないし向きなんかどうでも……おい。話してる途中だろ。枕の位置変えるな」
「私、こういうの一度気になっちゃうと無理な……ひゃっ」
暗い中、枕を南の方に持って行こうとしていると、腕を引き寄せられそのままバランスを崩しベッドに倒れる。
ハッとして目を開けると、成宮さんの腕が私を押さえつけるみたいに身体に巻きついていた。
仲良く並んで横になっている体勢になり慌ててしまう。
「ちょっと……」と身じろぐと、「はいはい。落ち着け」と背中をポンポンと叩かれた。
「向きなんか関係ないって。そもそもなんで北枕だとダメなんだよ」
ギュッと背中に回った腕に、これは押さえつけられているんではなく、抱き締められているんだと気づく。
抱き寄せられ、成宮さんの胸のあたりに私のおでこがくっついていた。
上から聞こえてくる声が、耳をくすぐる。
暗いからか、わずかな息遣いまで拾ってしまい、急に恥ずかしさが襲った。
「理由……は、わかりませんけど。でも、ダメだって昔から言われてますし」
緊張がそのまま表れたような声になってしまったのに、成宮さんは気付かない様子で返す。
「じゃ、大した理由じゃねーんだって。だいたいにして、そういうのは迷信で信じるか信じないかは自由ってヤツだろ」
まぁ……その通りではあるけれど。
「それに、北枕がいいって話もあるし。なんか地磁気?とかそんな関係で熟睡できるってなんかで見た」
「……そういうことだったら」
私の〝北枕反対〟は、言われてみればなんの根拠もないし……と思いここは譲る。
それに、成宮さんはもう動いてはくれなそうだという諦めも手伝っていた。
こんな大きな身体で抱きつかれていたら、成宮さんを動かすどころか私も抜け出せない。
静かな部屋。夜の存在をたっぷりと感じ目を閉じると、成宮さんのジャージから洗剤の匂いがした。
十一月だっていうのに、半袖Tシャツにジャージ引っかけるだけで寝ようとするなんて信じられない。私なんて長袖Tシャツにもこもこのパーカーを着こんでるっていうのに。
……それなのに、くっついていると成宮さんの体温の方が高いんだから不思議だ。