過保護な御曹司とスイートライフ
目の前の胸は上下し、トクトクと心地いい音がわずかに聞こえてくる。誰かの鼓動を聞くなんて、物覚えついてから初めてかもしれないなと考えた。
うちの家庭はスキンシップとかは少なかったから、小さい頃もこんな風にくっついて寝るとかはなかった。
だから、私をこんな風に抱き締めるのは、この人くらいだ。
金曜日まで知らない人だったのに……こんな風に抱き合って眠るのを不思議に思う。
……でも、成宮さんの呼吸を近くから聞いているうちに、緊張は解け、とろとろとした眠気がすぐそこまできていた。
「成宮さん」
もう、眠ってしまっただろうか。
規則正しく動く胸にそう思いながらも小さな声で呼ぶと「ん?」と、低い声が返ってきた。
眠そうな声色にふっと頬が緩む。
「私、今日ずっとワクワクしてました。初めて狭い檻から外に出たみたいに……ワクワクが止まらなかった。だから、ありがとうございます。一ヵ月間、ちゃんと、迷惑にならないように気を付けますから」
目を閉じたままそう告げ、そのまま眠りにつこうとしていると、しばらくしてから「おまえ、料理とかできる?」と聞かれるから、落ちていきそうだった意識がわずかに浮上する。
「凝ったものでなければ」
なんの脈略があるんだろう……とうとうとしながら考えていると、成宮さんが言う。
「じゃあ、明日からおまえが飯当番な。それが、家賃代わり。で、明日はハンバーグがいい」
「……ご飯は作りますけど、家賃も払います」
「いいんだよ。これは俺が言いだしたことなんだし」
これは、譲ってくれない声だな……というのがわかり、不本意だけど呑み込んだ。
「じゃあ、ハンバーグに目玉焼きとチーズも乗っけますね」
もう半分眠っているような状態で返すと、成宮さんの胸が楽しそうに上下する。
笑ってるんだろう。
「うまそうだな。なんか腹減ってきた」
「夢の中で好きなだけ食べてください。……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
そう囁くように言った成宮さんが私のおでこに唇を寄せた……ような気がしたけれど。
眠気にずぶずぶと沈んでしまって、現実なのか夢なのか確認はできなかった。