過保護な御曹司とスイートライフ
「切らないように気を付けてくださいね」
「オッケー。俺、器用だから大丈夫」
「成宮さん、今も毎日とはいかなくても会社にあるトレーニング施設で身体動かしてから帰ってきてますよ。だからあんなに食べられるのかも」
竹下さんが皮を剥いてくれたじゃがいもを、私がひと口サイズに切っていく。
竹下さんはピューラーで皮を剥きながら「ああ、そっか。アッキーと鈴村さん、同じ会社だっけ」と答える。
「トレーニング施設あるとかいいよねー。うちも入れようかなぁ」
そんな言い方するってことは、竹下さんも立場のある方なんだろうか……。
そう思い「あの、竹下さんって……」と口にした途端、遮られてしまった。
「俺、名前で呼ばれる方が好きだなー」
にこっとした笑みで言われ……一拍置いてから「慶介さん」と呼ぶと「なーに?」とへらっとした顔で聞かれた。
なんだか……憎めない雰囲気を感じてふっと笑ってしまう。
「で……あの、慶介さんも会社の重役を務めてるんですか?」
慶介さんが皮を剥いてくれたよっつのじゃがいもを切り、水を張った小鍋に入れる。
それからIHコンロのスイッチを入れた。
「んー、そんなたいしたポジションじゃないけどね。アッキーんとこの子会社……て言えばいいのかな。親がそういう会社やってるから俺はその手伝いしてるくらい。一応、副社長っていう肩書はあるけどねー」
「……やっぱり重役じゃないですか」
「んー、でも本当、そんな感じじゃないんだって」
ピューラーを洗いながらへらへらしている横顔を見る限りそうは見えないけれど、普通にすごくて思わずため息がもれてしまう。
そろそろ、大きなお鍋で煮ているお肉やにんじんに火が通ったかもしれない……と思い、ビーフシチューのルーを箱から開けまな板の上に並べる。
そして、溶けやすいようにと、ルーを包丁で千切りのように薄く切っていると、手についた水をピッピとシンクに弾きながら慶介さんが「でも、あの真面目なアッキーが同じ会社の子と同棲かー」なんて言うからすぐに訂正する。