過保護な御曹司とスイートライフ
普通の人が一夜限りの相手に使うような部屋じゃなかったし、資産家なことは確かだ。
昨日、お持ち帰りが無事決定してから乗せられた車は黒のレクサスで、運転手さんがいた。
自分で運転しなくていいなんて、かなりの立場がある人なのもしれない。
まだ二十代、いってても三十代前半だと思ったけれど、私の思い違いかなと思う。
裸眼じゃ、顔のシワまで見えないし、実際はもっと上だったのかもしれない。……色々と、慣れていたし。
物腰や雰囲気も落ち着いていて〝大人の男〟って感じがした。
……とても、素敵な人だった。
ホテルの最上階部分を見つめてから、そっと目を逸らし歩き出す。
口には言えないような場所にわずかに感じる痛み。
昨日の夜、私はたぶん、そこそこ大事なものを手離したっていうのに、世界はちっとも変わらない。
それでも……私の人生が大きく変わったのだけは確かだった。
弱い視力にわずかな不便さを感じながらついたアパートは、オフィス街から駅で六駅ほど離れた場所にあった。
最寄りの駅からは徒歩二十分。四年前に見つけたときには新築を謳っていて、綺麗なところが決め手だった。
全体的に白い外観。そこにシンプルな窓がはめこまれていて、外階段を覆う屋根と風よけの部分は、落ち着いたオリーブ色。
それぞれの部屋についているベランダは、ウッドデッキのような木の素材でできている。
落ち着いた色合いと、温かみのあるベランダも気に入ったポイントのひとつだったかもしれない。
そんな素朴でかわいらしいアパートの二階、一番奥が私がひとり暮らしする部屋だ。
入居して四年が経つけれど、住み心地は気に入っている。
濃いグレー色した玄関を開けて中に入ると、右にキッチン、左に水回りへと続く扉が一枚。そして前面に広がるのが、十畳弱のワンルーム。
薄いベージュ色したフローリングの上に置いてある家具は、白いベッドと、同じく白のローテーブル、そしてオリーブ色したふたり掛けのソファ。
ローテーブルの下には、薄いグレー色の毛足の長いラグマットが敷かれている。
一見、家具が少ないのは、部屋の右部分が大容量のクローゼットになっているからで、そこも、部屋探しの際、大きな決め手だった。