過保護な御曹司とスイートライフ
そういうものなのか。
でも会社の更衣室とかで他の女性社員が話しているのを聞くと、合コンとかよく話題に上がるけどな、と考えていると「それにしても、ずいぶん怖がってたな」と言われる。
見上げると、からかうような笑みを向けられるから、ムッと口を尖らせた。
「私だって本気を出せばあれくらいできます」
「どうだかな」
「本当ですよ」
「へー」
慶介さんがシンクの上に置きっぱなしだった箱からチョコを一粒つまみ、成宮さんに突き出す。
「楽勝です。はいこれ」
成宮さんは、やや怪訝そうにしたあと、突き出されたチョコの意味に気付いたのか「なに、くわえて待ってればいいのか?」と口の端を上げた。
「そうです」
「じゃ、はい」
あっさりそうするってことは、私が絶対にできないって決めつけているからだ。今からギリギリまで近づいた私にチョコを奪われるっていうのに、余裕の表情で待っている姿を腹立たしく思いながら、成宮さんの腕をそれぞれ掴む。
「目、閉じててください」
成宮さんが〝はいはい〟とでも聞こえてきそうな顔で目を閉じたのを確認してから、背伸びをし……襲ってきた緊張をなんとか呑み込んで近づく。
顔を傾け口を開けると、心臓のドキドキが外まで飛び出し身体を震わせた。
こんなの、どうにかなりそうだ……。
それでもここで止めるのは嫌だった。女の意地がある。
バクバクとうるさい胸に、これはただの作業だと言い聞かせ、最後の一歩の距離を埋める。
そして、チョコの略奪に成功したとき――。
「ん……っ」
離れようとしたところを抱き寄せられ、そのまま唇を合わせられる。
口先にくわえていたチョコは、成宮さんの舌に押し込まれ、そのまま私の咥内に落とされる。
甘いチョコがふたりの舌の温度にとろりと柔らかくなり溶け出す。鼻に甘い香りが抜けていき、頭のなかがクラクラしそうだった。