過保護な御曹司とスイートライフ
『彩月を守れるのは俺だけだから。彩月もなによりも俺を優先して信じてほしい。……なにがあっても』
それは、婚約者として紹介されたあと、しばらくしてから辰巳さんに告げられた言葉だ。
私の手を優しくとり、穏やかな表情で微笑む辰巳さんの瞳には、なにか強い意志のようなものを感じた。
辰巳さんは、数度しか会ったことのない私に、なんでここまで言ってくれるんだろう。
その疑問はその時に生まれたまま、今も私の胸のなかにある。
『彩月を守れるのは俺だけだから。彩月もなによりも俺を優先して信じてほしい。……なにがあっても』
〝なによりも〟って、具体的にいうとなんだろう?
〝なにがあっても〟と、意味深な口調で付け加えた辰巳さんには、この先、なにかがあるって見えているんだろうか。
いつも穏やかな表情しか見せない裏で、辰巳さんはいったいなにと戦っているんだろう。
成宮さんのところでお世話になるようになって一週間が経っても、辰巳さんからこれといって探りを入れるような連絡はなかった。
なんにでも慎重で疑り深い人だから、あの電話一本で納得してくれたとは思えないけれど……。私が辰巳さんの性格を誤解しているだけだろうか。
テーブルには夕食に作ったオムライスとサラダ、そしてカボチャスープが並んでいた。
成宮さんはこれにパンを食べるらしいけれど、もうその食欲に驚きはしなかった。
念のためにとフランスパンを買っておいてよかった。
私が夕食を作るようになってちょうど十日。
最初の数日はいちいちマンションのエントランスを通るたびにビクビクしていたけれど、今では水槽の熱帯魚を眺める余裕も出てきていた。
食事を始めて少しした頃『婚約者はなにも言ってこないか?』と成宮さんが聞いてきたから、なにも連絡はないことと、それが意外だということを伝える。
あと、なにに対しても疑り深いことを言うと、成宮さんがサラダを食べながら聞く。
「疑り深いって、仕事でか? それともプライベートでも?」
「両方です。たぶん、私が言うことも半信半疑というか、全部は信じ切っていないんじゃないかなって」