過保護な御曹司とスイートライフ


そもそも辰巳さんは私との縁談を快く受け入れたんだろうか。
辰巳さんも、私と同じように両親に逆らえなかったとかそういうことだとしたら、なんで私を大事にしてくれるのかがわからない。

うちの会社と辰巳さんのお父さんが経営している会社では、辰巳さんの会社の方が大きい。

辰巳さんの会社に手を切られたらうちは困るだろうけれど、その逆はないのに……なんで強引に決められた婚約者に、忙しい仕事の合間を縫って週に二度も会いにくるんだろう。

『俺のことは気にしなくていい。俺は、彩月さえ笑っていられればそれでいいから』

いつだったか、私なんかと婚約してしまって本当にいいのかと聞いたときに、辰巳さんから言われた言葉だ。

そう言った辰巳さんは、まるで、自分のことすら後回しにしそうで……そこに、なにか言葉にできない感情を覚えた。

なにか言葉の裏に辰巳さんの本音があるような、そんな気がした。

たしかに引っ掛かりは感じるのに、そこに答えがあるのはわかっているのに、手が届かない。
まるで、頑丈な鍵がつけられた箱みたいに、開けられない。

「どっちにしろ、おまえを大事に想ってるってのは事実だろうけどな」と言いながらパンをかじる成宮さんを、ぼんやりと眺め……それから目を伏せ笑みをこぼす。

理由はわからなくても、辰巳さんは私を大事にしてくれている。それを誰よりも知っているのは私だ。

――だから。

「だから、あの夜、ひどくして欲しいってお願いしたんです。私がしたことは、辰巳さんへの裏切りになるから」

そっと視線を上げると、成宮さんは驚きを顔に広げていた。
急に私がこんな話題を出したからだろう。

〝ひどくして欲しい〟というお願いを叶えてもらえなかったことを今さら責めるつもりもないから、すぐに「それにしても」と話題を変えた。



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