過保護な御曹司とスイートライフ
「俺、名字は母方の名字を名乗ってるけど、実際は父親と暮らしてたんだ。もともとの家だったから、母親が出て行った時、俺は残った感じで」
「そうなんですね……」
「で、本部に配属されるってなったとき、家でも仕事でも親父と顔合わせるのかって考えたら窮屈に思えただけ。少し距離置いた方が、自分的に仕事がうまく回る気がしたからってだけで……なんか悪いな。大した理由じゃなくて」
申しわけなさそうな笑みを浮かべる成宮さんに、ゆるく首を振ってから笑顔を返した。
「いえ。よかったです。複雑な理由を抱えているとかじゃなくて、安心しました」
色々確執があったりするのかなって考えていたから、そんな理由からじゃなくてよかった。
だから目を細めると、成宮さんはなぜか私を見つめたまま黙ってしまって……どうしたんだろうと思い眺めていると、そのうちにふっと表情を緩められた。
柔らかい微笑みに胸の奥の方がトクンと弾む。
心臓とは別の、もっと奥の部分をキュッと掴まれたみたいに苦しくなり、そこから感情が溢れ出す。
あたたかくて、穏やかで、ふわふわと身体を軽くさせるような感情にただ戸惑っていると、成宮さんが言う。
「ありがとな。そんな風に考えてくれてるとは思わなかった」
真っ直ぐな笑みが目と心臓に毒で、視線を逃がしながら慌てて話題を探す。
息を吸うごとにドキドキが増してしまうような感覚にはもう、耐えられそうになかった。
「あ、でも……あれですね。せっかくのひとり暮らしなのに私がいたら、誰か連れ込んだりとかできないですよね」
急いで用意した話題があんまりだったのは、さっき夕食を作りながら見ていたバラエティーでそんな話題が出ていたからだ。
男性アイドルがひとり暮らしを始めたなんて聞いた若手芸人が、〝じゃあ女の子連れ込み放題じゃないっすか〟なんて言っていたせいで、こんな……。
らしくない発言だったのは自分でも気付いていたから、〝やっぱりなんでもないです〟と引っ込めようとしていたのに、それより先に成宮さんが答える。