過保護な御曹司とスイートライフ
別の日には、私がドライヤーをすぐにかけないことで言い合いになったり――。
『おまえ、また……っ。風呂出たらすぐ髪乾かせよ』
『まだ暑いんです。熱が抜けたら乾かします』
『そうやって放置してる間に風邪引くんだからな』
『ドライヤーって面倒なんですよ。お風呂出てぐったりした身体で取り掛かるような作業じゃ……』
『おまえ、なんで他のことはきちんとしてんのにドライヤーだけ異常に面倒くさがるんだよ……あー、もう、ほら。こっちこい』
逆に言うと、成宮さんはドライヤーのことだけはなぜかきちんとしているから、私がいい加減なのが見過ごせないらしい。
そんな言い合いを何度かしたあとから、私がお風呂を出ると成宮さんが呼び、ソファの上でドライヤーをかけてくれるのが日課になった。
ちなみに、そのあとソファにコロコロをするのは私の仕事だ。
男の人に髪に触られるのはちょっと……と最初こそ遠慮したんだけど。一度されてしまえばその心地よさに、もう完全に虜状態。
大きな手で優しく髪を撫でられながら温風を当てられるのは、マッサージと張り合うくらいに気持ちがよくて、お風呂から出たあとはいつも夢心地だ。
成宮さんの手に撫でられていると胸の奥の水風船がほこほこと温かくなる。それは私全部に幸せな気分を巡らせるようだった。
私自身気付かなかったことだけど、案外、気が強い部分があるみたいで、成宮さんとちょっとしたことで軽い口論になるのは日常茶飯事だ。
でも、それが嫌な着地点には落ちないのは……たぶん、ケンカの理由のせいなんだろう。
カボチャが危ないってことだったり、ドライヤーをすぐかけろだったり。成宮さんが言うことは私を思ってのことだから。