過保護な御曹司とスイートライフ


逆に、私が言うことも同じで……お互い相手を思っての言葉であって口論であるから、そしてそれをお互いにわかっているから、嫌なモノのまま終わらないんだろう。

『浴槽のお湯、43度じゃ熱すぎます。身体に悪いから今日から40度にします』
『ソファでなんか寝たら風邪引きますよ。もう眠いならちゃんとベッドで寝て下さい』

私がする注意を、成宮さんはたまにうるさそうにするけれど『仕方ねーなぁ』って、最後は折れてくれるから。

相手を思ってこそのケンカがある。分かり合いたいからこそのケンカがある。
それを、この生活で初めて知った。



「魔物がきた」

私が会議室の片付けを終えて戻ると、矢田さんがため息交じりに言った。
記録を見ると私が席を外している間に一社の来訪があったらしい。

「営業に嫌な顔されちゃいました?」

椅子に座りながら聞くと、矢田さんは「うん。だって棚田さんだもんー」とげんなりした様子で話す。

「あの人、基本的に嫌味しか言わないじゃない? だからあんな蛇みたいな顔つきになっちゃったと思うんだけど、鈴村さんどう思う? そう思うよね?」

ぐいぐいくる矢田さんへの返答に困りながらも「あそこまで毎回ネチネチ言わなくてもいいとは思います」と苦笑いを浮かべる。

「でしょー?!」と力強く言った矢田さんが背中を背もたれにつけ天井を仰ぐ。

「〝腰かけてりゃいいんだから楽だよなぁ。それでいくらもらってんの?〟とか言われたんだよ、もー……なんかすごく社に居づらくなるような噂広めてやりたい……」

営業部の棚田さんは、受付に来てほしいって頼むたびにそういう嫌味をひとつふたつ言っていくから、私も好きではない。




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