過保護な御曹司とスイートライフ
『笑顔ひきつってんじゃん。ずっと思ってたんだけど、その見た目で受付嬢って、コネかなにか?』
ニヤニヤしながらそんなことを言われたときには、少し驚いた。
だって完全なセクハラパワハラ発言だし、棚田さんこそ、その態度で営業部っていう社の中心にいるなんてコネなんじゃないのかなとも正直思った。
更衣室で着替えていると、他の部署の女性社員も棚田さんのことをよく話題に挙げているからきっと、受付にだけじゃなく、他の部署でもあんな態度なんだろう。
棚田さんの名前は、文句や悪口以外で聞いたことがないから、もうそういう人なんだと割り切っている。
「美少女フィギュア集めが趣味……マザコン……」と、棚田さんのニセ噂を考えている矢田さんに「営業部ってストレス溜まるんでしょうね」と話しかけると、眉を寄せられる。
「まぁねー……。わかるけどね。色んな企業相手にペコペコしなきゃだしストレスだって溜まるとは思う。でもだからって、立場の弱い女性社員にあたるのはおかしいと思うのよね」
頬杖をつき、気に入らなそうに目を瞑った矢田さんが続ける。
「あの人、結構見た目のこととか言ってくるしそこが一番嫌なのよね。鈴村さんなんて言い返さないから目の敵にされてるじゃない。〝華がないよね〟とか〝平凡だよね〟とか、平気で言ってくるところが頭にくるのよ。そんなこと言える顔かっての」
腹立たしそうにため息をついた矢田さんを、どうにか宥めたほうがいいだろうか……と考えていたとき。
「今の話、事実か?」と、急に男の人の声が聞こえてきた。
私は入口に背中を向けてしまっていたし、矢田さんは目を瞑っていたから気付かなかった。
しまった……と思い、ふたりして慌ててそちらを見ると……。
カウンターに肘を置いた成宮さんがこっちをじっと見て眉を潜めていて、驚く。