過保護な御曹司とスイートライフ


――やっぱりあやしいかもしれない。

名字がバレたことに動揺して、持ったままだったドアノブを思いきり引く。
でも、ドアは閉まりきることなく〝ガ……ッ〟と鈍い音を立てて途中で止まった。

見れば、成宮さんの皮靴が間に入り込んでいて……視線を上げると、細い隙間から「いってぇ……っ」と痛がる様子が見えた。

こういうの、刑事ドラマで見たことあるかもしれない。

「すみません。つい、動揺のあまり咄嗟にドア引いちゃって」

ググッとドアを引く力は弱めずに謝ると、成宮さんはドアを手で開けようとしながら言う。

「咄嗟っていうのは瞬間的な判断を言うんだろ。おまえのコレは咄嗟じゃねぇし、その前に動揺ってどこがだよ」

それぞれ自分の方向に引こうとする私と成宮さんで、ドアの引っ張り合いみたいになる。
こんなに全力で引っ張ったのは、小学五年生の運動会で行われた綱引き以来かもしれない。

成宮さんの力に負けそうになりながらも、手は緩めずに言う。

「顔に出ないんです。よく言われますけど、内心、相当焦ってます。心臓バクバクです」
「本当に顔に出ないな……。とりあえず、手、離せ。いい加減、足いてぇ」

そんなことを言われても……と、ドアを引く力はそのままに、眉を寄せた。

「だってここは私がひとり暮らしする部屋です。そこに、私の名前も住所も知らないハズの人がこんな朝早く訪ねてきて、はいどうぞって通せるわけがないじゃないですか」

言いながら、なんでここがわかったのかを考える。

昨日のことを思い出してみるけど、たしかに名前は名乗っていない。もちろん、住所も電話番号も。

身分証関係を部屋に落としてきたとか?と考えてみるも、社員証は昨日は持っていなかったし、保険証はお財布の中だ。

定期を出すためにバッグのなかを確認したとき、お財布はたしかにあった。そうなると、保険証だけを落とすなんて考えにくい。

大体、万が一、なにかしらの事情で名前がバレたところで、住所を調べようがないハズだ。
名前から調べられる職種の人なんて、警察だとかそれくらい――。


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