過保護な御曹司とスイートライフ
慶介さんがタオルを畳みながら話してくれることを、なんとなく理解することができた。
相手が軽い気持ちだろうが、そんなの関係なく成宮さんは真面目に対応する人だ。使い分けなんかできない、ある意味不器用な人だから。
成宮さんがパジャマ代わりに着ているTシャツを畳みながら「わかります」と相槌を打つと、慶介さんが続ける。
「少し前だけど、取引先の娘が近づいてきてさ。あまりに好き好き言ってくるからアッキーも真面目に返事をしようとしてたみたいなんだけど。でも、その子が他の男と飲んでる席にたまたま居合わせちゃったんだよね。
その子〝本気にしててウケる〟ってアッキーのこと言ってて頭にきた」
思わず「成宮さんも聞いてたんですか……?」と聞くと、慶介さんがため息をひとつついたあとでうなづく。
「聞いてたよ。なのに、その席に怒鳴り込もうとしてた俺を止めてた。別にいいからって」
「……納得いきません」と眉をぐぐっと寄せると、慶介さんが「でしょ?」と片眉を上げた。
「俺もどうにもイライラしてダメだったから、あとでその子問い詰めたんだよ。そしたら、アッキーに近づいたのは、自分に惚れさせとけば仕事上、有利に事が進むんじゃないかって思ったからだったんだって。
でも、アッキーは公私割り切るから、その子の思い通りにはならなくて、それにイラついてアッキーの悪口言ってたみたいだけど」
「……呆れますね」
「お。鈴村さん、話がわかるね。案外、気強い?」
聞かれて戸惑う。
だって、今までそんな風に言われたことなんてなかったし、自分自身思ってもみなかったことだ。
いつだって、両親の前ではただ従うだけだったし、辰巳さんの前でも口ごたえなんてしようと思わなかったから。
でも……成宮さんとここで生活するようになってからって期間限定でいえば、たしかに気が強いのかもしれないと思った。
気が強くなければ、浴槽に張るお湯の温度でケンカなんかしない。
知らないうちに起こっていた自分の変化に戸惑いながらも「そうかもしれないですね」と小さな声で言うと、慶介さんは「やっぱりねー」と笑い続けた。