Darkest White
光はそのあと何も言わなかった。
スタスタと何事もなかったかのように歩き出したから、わたしも彼の後に続いた。
彼に、沈黙というものの恐怖はない。
車に揺られながら、わたしは隣で静かに運転する彼からなるべく逃れたくて、窓に寄りかかって外の景色をぼんやりと見つめていた。
光は、いつだって心の奥底に入り込もうとはしない。一定の距離を置いて、人と接している。
だからわたしにも深入りをするつもりはないらしい。
学校のことに気づいたのか気づいていないのか、光はそれ以上何も聞いてこなかった。
ただ一言、『今日は早く寝ろよ』とだけつぶやいて、家に着いたらそのまま二階へ上がってしまった。
仕事場へ行った理由も、バイトの店員になって欲しかった理由も、何も、わからない。
バイトのことは…彼がわたしの今の状況を把握していることを示す脅し…?
普通の高校三年生とは程遠い名無しの彼。
光。
そう呼ぶ彼は、次第にじりじりとわたしの心を奪い始めていた。
当時わたしはまだ、気づいていない。
この、淡い気持ちに。
ー気づくのは、間違いだった。