Darkest White
「笹原さんは…っ、元気?」
『おお、僕か?僕はいつも通りだよ。凛ちゃんの笑顔が見れないことが残念だけど。』
「はははっ、またそんなこと言って。」
笑えてるかな…?
もっと笑わなきゃ。力一杯笑わなきゃ。
ー無理やりにでも、笑顔を作らなきゃ
『約束した誕生日プレゼントのお出かけ、まだできてないな…ごめんな、知らなくて。忙しいって聞いてたから、なかなか電話かけられなくて…』
「う、ううん…笹原さん、言ってなくてごめんね。」
『いや、お母さんから聞いてびっくりしたよ。まさかあの凛が将来通訳者になりたいなんてな。凛ちゃんは昔から夢がなかったから、僕はすごく嬉しいよ。』
笹原さん…っ、ごめんなさい…ごめんなさい…
唇をぎゅっと食いしばれば、少しだけ鉄の味がする。
右手の拳をあまりにも強く握りすぎて、爪が手の平に食い込んでいる。
『ああ〜楽しみだなあ!凛ちゃんが大人になるなんて想像できないけど、楽しみだよ。』
久しぶりに、胃の奥がぐっと痛くなる。無意識に右腕をさする。背中がジンジンしてきたような気がした。
目の前にある鏡の前で、シャツを捲り上げて、少しだけ後ろを向く。背中に浮かび上がる紫色の大きな痣は、形は消えたとしても、心から消えることはない。右腕の赤い傷跡だって、後頭部の縫い目だって、全部、消えることはないんだ。
「ご…ね。」
『うん?』
「ごめ…ね。」
『……、凛ちゃん、大丈夫?』