Darkest White
わたしはバイト先から猛烈な勢いで電車に乗り込む。そしてそこから15分もしない場所の駅で飛び降り、改札口で息を整えて普通に歩み出る。
いた…
驚くほど磨きのかかっている黒い車。ただの軽車なのに、どうしてか目立ってしまうその車こそ、わたしの送迎をしてくれている人が主である。
遠くからでもわかる、びっくりするくらいの輝きが、彼自身から放たれている。
わたしは迷うことなく、まるで糸に引かれるように、彼の元へと足を運ぶ。
「行くぞ。」
近づけば、光はそう一言つぶやいてドアを開けてくれる。
「うん。」
わたしも静かに頷く。
気づけば周りからは甘い視線。ちらっと顔を上げれば、下校途中の女子高校生が盗撮している。
「まじやばいんだけど。」
「芸能人かなー?」
違うよ…この人は………
何か言おうと思って、言葉が出なくなることに気づく。
誰か…?
そんなの……………答えられないよ。
ねえ、誰なの。そう思って顔を上げても、無表情でわたしを見下ろす彼がいる。
何を考えているのかわからないその凍てついた顔を、ずっとわたしは見てきた。
それに、ただたっているだけ。それだけのことなのに、こんなにも視線を集める人は、この世に彼以外存在するのだろうか。光は気づいているのいないのか、無言でわたしを促す。
もう一度振り返れば、そこには前よりもたくさんの視線を感じた。見られることは、あまり好きじゃない。
わたしはいそいそと助手席に乗り込む。
車の中は、異様に静かだった。いつも、光は何も喋らない。だけど、この時間、嫌いじゃない。