Darkest White

「花蓮はあんたを信じてた。」


鈴波さんの声が静かなリビングにやけに大きく響く。


「だからホテルなんかに行ったのよ。」


なんの……話?


「でもあんたは期待を裏切った。」


「…やめろ。」


怒りをあらわにした光の震えるような低い声。

だけど鈴葉さんはやめなかった。むしろ、それを望んでいたかのように淡々と語る。


「体を重ねる関係であの子は救えない。わかってたでしょ?」


「……黙れっ。」


「そんなに浅い傷じゃなかったの!なのに、」


「黙れっ!!!」


「天馬はもともと絶望してた花蓮にもっと絶望をっ、」


「黙れっつってんだろ!!!」


思わず耳をふさいでしまいたいほどの怒号が響き渡った。

冷徹な眼差しに似合わないほど歪んだ光の表情。


まるで…



泣き出しそうな顔だった。



鈴葉さんの震えるようなため息が聞こえた。



「天馬はいつだって、そうやって逃げるんだから。」



玄関に向かう鈴葉さんを止める人はいない。





「…花蓮は逃げれなかったのに。」





その言葉を最後に、バリンと何かが割れた音がした。そしてそれを合図に、ガチャン、ダアアアン!と凄まじい音がして、目の前に椅子が飛んできた。


慌てて立ち上がれば、さっきまでテーブルの上にあったクッキーが足元で粉々になっていた。




「あああ”っ!」



そのあと光がテーブルを倒したということに気づくのに、そう時間はかからなかった。


「光っ…?」



いつの間にか鈴葉さんはいなくなっていた。



「だあああ”あっ!!」



こんなに取り乱した光を見るのは初めてだった。



「光っ、やめて!」



いくら叫んでも、今の光には届かない。


狂ったように手当たり次第物を掴んでは投げていく光。それは今まで封印していた光の苦しみを表しているみたいだった。


「光っ!光っ!!!」


腕を掴んだけど、そのまま振り払われた。ダン!!鈍い衝撃と共に壁にぶつかる。いつの日かの思い出がフラッシュバックして、頭を抱えてうずくまった。


こんな人を、わたしは見たことがある。


「うう……っ、光、っ…やめて…。」

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