Darkest White
「幸せ逃げんぞ。」
フッと背後で声が聞こえて慌てて振り向けば、お風呂上がりの光が髪の毛をタオルでワシャワシャしていた。
「…っ、」
どうやって光を見ればいいのかわからない。なぜだか勝手に罪悪感に追われているわたし。
光なんてきっと星の数ほどキスなんてしたことあって、わたしのなんかそのうちの一つにすぎないのに…
「んで目逸らすんだよ。」
わたしは無言を貫く。だって喋ったらボロが出てしまいそうなんだもん。別にわたしが岬とキスをしようが彼には関係のないことだろうけど、わたしがいやだから。
本当、岬をぶち殺したい。うん。
「はあー…ったく、まだ引きずってんのか?その女子のこと。」
光はどかっとソファに腰をかけると、ぐいっとわたしの腕を引いて立ち上がらせた。
「ここ座れ。」
「…。」
「チッ。」
強引に腰を引き寄せられ、密着した距離でソファに強制的に座らせられるわたし。
「何不貞腐れてんだよ。らしくねえな?」
光に顔を覗き込まれて、どきっとする。長い睫毛で縁取られた鋭い瞳は、いつだってわたしをとらえて離さないんだ。ビー玉みたいに透き通っていて、本当に綺麗…。
「光はさ…何回キスしたことあるの?」
「…は?」
少し間をおいて、光が怪訝そうに眉をひそめる。
「好きでもない女の子とキスしたりするの?」
なるべく光の目を見ずに問いかける。
「………さあな。」
光はもう一度髪の毛をワシャッと拭く。
「お前はするのか?」
光から質問が返ってくるとは思っていなくて、驚いた。
「光に聞いてるんだし。」
「…まあ、男は皆するもんなんじゃねえのか?」
じゃあ…わたしも、光の一時期のお遊びだったってことなの…?
「知らねえけど。」
そう言って立ち上がる光。
「明日もう一度話しかけてみたらどうだ。何か変わるかもしれねえぞ。」
もう…人の気も知らないで…。
わたしは今一度、光の背中を思いっきり睨んでやった。