Darkest White
Night 6
Winter Blossom
それは初雪だった。
「クシュン!」
「風邪引くんじゃねえぞ。」
首元に感じるぬくもりに顔を上げれば、さっきまで光の首に巻かれていた赤いマフラーが、わたしそっと包み込んでいる。
光の匂いがする…
くすぐったくなるような、甘い、彼の匂い。
香水の香りだけじゃない。光特有の、ぽかぽかするお日様みたいな、優しい匂い。
「引かないし。」
照れ隠しのようにキッと顔を上げれば、
「そうだな。バカは風邪引かないって言うしな。」
と言ってハハっと笑う彼がいた。
ひらひらと舞う雪の粉を背景に、赤い刺繍の入った黒のコートを着た彼は、切なくなるほどわたしの恋心を掻き乱す。
黒の奥に見える血色のシャツは、遠い記憶の中の、月夜の彼の服装と同じだった。まだあの生ぬるい、生きているのかわからないようなコンビニで働いていた頃の、彼の服装。
「光…、今日も学校行かないの?」
隣を歩く彼に視線を向ければ、目尻を少しだけ下げる彼。
「…ああ。ちょっと、な。」
「…お仕事頑張ってね!」
「お、おう。」
少しだけ恥ずかしそうにそっぽを向く彼を、わたしはしっかりと記憶に刻む。