Darkest White
「ここ?」
そう首を傾げれば、外側からドアが開けられる。清楚なシャツに身を包んだ男の人が立っていて、急いで車から降車する。
隣を見れば光も慣れた様子で降りていて、わたしの少しだけ緊張した表情を見てゆるく口角を上げた。
その余裕の違いに、少しだけ歯がゆい思いを感じた。
前方を向けば、結婚式場にも使われていそうな高級感あふれる建物がわたしを見下ろしている。手前にある噴水が、ロビーから漏れるシャンデリアの光で踊っている。
「行くぞ。」
そう言って歩き出す光の後を子犬みたいに着いていく。
ロビーの端にある受付で何かを言うと、そこにいた受付の人ががそそくさと歩き出す。それに続いてわたし達も後を追う。
ピカピカに磨かれた大理石の床にわたし達の姿が映り込む。
高身長で、息をのむほど美しい顔。堂々とした雰囲気を放ち、マントのような黒いコートが似合う…世界中の女性が惚れる男。
そして低身長で、ガリガリで、青白い顔をした少女がその後を一生懸命追っている。
「こちらへどうぞ。」
受付の優しそうな男性が扉を開ければ、そこは開店前のレストラン。
テーブルの上で揺らめくロウソクが、濃い青と夕焼け色の夜景に映り込んでいる。やや暗めの西洋の雰囲気を漂わせる部屋は、わたしには不釣り合いな大人の世界に見えた。
光が腰を下ろすと、わたしもその前におずおずとお尻を置く。
「コースで。」
そう光が言えば、彼はそれをメモすると、このレストランの構造から食事へのこだわりをわかりやすく説明し始める。
光はそれを遮ることもなく、どこか悠々とした表情で彼の言葉を黙って聞いていた。