Darkest White
「…こういうところ、よく来るの?」
店員さんがいなくなったことで少しだけ緊張が薄れたわたしはそうたずねる。
「…ん、たまに。」
「ふうん…。」
どこかの街で聞いたことのある古いジャズの音楽と、バーテンダーのワイングラスがチャリンと鳴る音だけが、この店の一定のメロディを作り上げている。
「どうして人、誰もいないの?」
「…貸し切った。」
「…へ?」
光は少しだけ面倒くさそうに視線を外へ向ける。
「この席なかなか取れねえんだよ…それに、夜景見てえかと思って。」
わたしも光につられて夜景へと顔を向ける。
夜の街はたくさんの明かりで溢れていた。
夜だからこそ見ることができる、昼間には魅せない姿がそこには永遠に続いていた。
まるで無数の星々みたいに。
日が昇ると見えなくなるけれど、闇が訪れるに連れて星々の輝きは増してゆく。
「暗いからこそ…綺麗なんだよな。」
そう静かに落とした彼の言葉が、スッと体に染み込んだ。
大都会が作り上げる淡いオレンジ色の光がロウソクの灯火と重なり、光の顔に優しい色合いを重ねていた。
なぜだか視界が歪んで慌てて目線を下界へ向ける。
行き交う車、チカチカと点滅する信号。それらが全て遠くでぼやけて見えた。