Darkest White
家へ着いたのは午後九時を過ぎた頃だった。
良い子はみんな眠る時間。
「ただいま〜。」
今ではもうすっかりお馴染みの大きな黒い鉄のドアを開けながら、外からの冷気に含む粉雪に少しだけ身震いをする。
家の中はいつものように静かで寒かった。
大きな黒い時計が刻む時だけが、広い玄関に小さくこだましていた。
……だけど、こんなにも寒い家なのに、どうしてか、心の奥はあったかくなるんだ。
「おかえり〜。」
久しぶりに聞く声に少しだけ眉間にしわを寄せる。
……こいつ、嫌い。
「あからさまに顔しかめないでよ〜。凛ちゃんに嫌われたくないなあ俺。」
……。
。。………………やっぱり、嫌い。
「ちょ、そんなまじギレしないで。」
岬が困ったように笑ったところで、顔の目の前にふわっと甘い香りがした。
「…ホットチョコレート、飲むか。」
光はつくづく出来すぎている男だと思う。
容姿はもちろん、優しくて紳士…まあ、大抵紳士的で、男らしくて、大人の色気を持っている。
経済力もあって、頭も良くて、ハキハキとものを言える正直者。
どうしてこの世界にこんなにも完璧な人が生まれたのだろう。
そう、思わずにはいられない。
…でも、わたしは知っているけどね。
完璧な人なんていなくて、いろいろと抱えているからこそ、今の彼の姿があるって。
でも、でも、そうだとしても…やっぱり彼は世の中の理想の人間のように思えてならない。
年齢不明(高校生なのも最近疑問である)。職業不明。生い立ち不明。名前不明。
全てが不明な彼だけれど、一つだけ確かなものがある。
「甘っ…。」
「お前甘党じゃないのに無理して飲まなくていいんじゃないの?それにこういうの柄じゃないでしょ。」
「……いや、凛の言うクリスマスイブってこういうことだろ。家族みてえに集まってあったまりたいんじゃないのか?」
「っ…うん。ありがとう…!」
大きくて寒い家には、ホットチョコレートの温かい湯気と、優しい笑顔が広がっていた。
ー神様。どん底の暗闇を知ったわたしだからこそ見える光があるのだとしたら…
それはきっとこの瞬間だと思います。
「美味しいね、!」
「甘えけど、お前となら悪くねえ。」
一つだけ確かなこと。
それは、
ビタースイートな彼は、誰よりも甘い優しさを持っているっていうこと。