Darkest White

February Tears



人は幸せなほど時が経つのが速いというのを、わたしは初めて実感した。


ー--ー…


わたしの一日はカーテンから漏れる朝日とともに始まる。


ふかふかのベッドからむっくりと起き上がれば、あらかじめハンガーにかけておいた、アイロンで伸ばしたばかりの制服に腕を通す。

シャッとカーテンを引けば、小さな日光色の腕を精一杯伸ばすフクジュウソウが、小さく風で揺れている。

群青色のネクタイを首からぶら下げて、長い廊下を突っ走り、角を二回曲がって階段を駆け下りれば、胃の唸りを促す香ばしい匂いが鼻をつく。


「はよ。」

「おはよー。」


最近突如黒髪に染めて帰ってきた岬からトーストの乗ったお皿を受け取り、二回往復して大理石でできたダイニングテーブルにそれらを三枚並べる。

数週間前から自主的に家事をこなし始めた岬には、光も少しだけ驚いているみたいだった。


「「「いただきまーす!」」」


甘いジャムを乗せたトーストと目玉焼きを交互に食べるわたしを見て、デブだの怪獣だの、岬が子供のように騒いでいる。

ここ最近一気に岬との距離が縮んだように感じているのは、きっとわたしだけじゃないはず。


「昨日の数学の範囲わかったか?」

「あ、うん、ありがと。」


それに加えて、わたしの勉強が順調なのはきっと光が時に厳しく、だけど毎日根気よくわたしに勉強を教えてくれているから。


そんな中、急にテーブルが振動したことによって、光か岬に連絡が入ったことを察する。

何食わぬ顔でコーヒー牛乳を飲んでいれば、光が携帯を耳にしながら立ち上がる。


「…はい、ああ…はい…順調です…はい、いえ……まだ、でも……」


何の会話をしているのか見当すら付かない。だけどあの光が敬語を使うような相手であることだけはわかる。


毎日色んな匂いを纏って帰ってくる彼。


キツイ香水の香りだったり、苦いタバコの匂いだったり、顔を背けてしまいたくなるほど濃いアルコールの臭いだったり…


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