Darkest White
「あんたもう着替えたんでしょ?だったらわたし着替えてくるから先行ってて。」
あいよ、って手を上げれば、恵はだるそうに教室を出て行く。どうしてこうも毎日だるそうに生活できるのか。ある意味才能だと思う。
いつの間にか真面目な生徒は皆体育館へ行ってしまっていて、残されたのはフマジメピーピルのみとなった。
「………。」
「…スー…スー……。」
「………。…。。。。。。」
今のわたしの心の内を説明すれば、起こすべきか起こさぬべきかの格闘中と言ったらわかりやすいだろうか。
なんだか恵と初めて会った頃に似ているこの状況。
ただ、川島花蓮は強者だ。
色んな意味で。
「…体育、行かないの?」
「……。」
無反応…。
ガチ寝か…それとも嘘か。
この人は、よく人を無視するからどっちかわからない。
まあ、ガチ寝かな。
手を伸ばしてわたしの指先が彼女の肩に触れそうになった時、ビクっと彼女の体が震えて、いきなり椅子をガッと引くものだから、またもや心臓が止まりかけてしまった。
「触んな!」
「ご…めん。起こしてあげたほうがー」
「関わんなって言っただろ。」
その瞳は全てを拒絶していた。
まるでこの世界自体を憎んでいるような…まるで、自分の存在さえもうっとうしいかのような、そんな二つの狐のような眼がわたしを冷たく睨んでいた。
「ごめ、ん。」
「何が目的?」
訴えかけるような表情に背筋が凍る。
とうとう、わたしの知らない扉が開けられる…そんな錯覚に陥った。
今まで多数話しかけては無視してこられたわたし。そんな中、今日初めてちゃんと意図的にわたしに向けられた言葉。まるで彼女がしびれを切らして、後戻りのできないなにか途方もなく重大なことを言う気がした。
「ハア…………あいつなんでしょ?」
「……えっ、」
「あいつ以外なんの理由があるっていうの?」
「……。」
きっと今、わたし達の心の中には同じ人がいる。
サラサラした髪を無造作にかきあげて、ため息まじりに立ち上がる彼女。それは、ここ何ヶ月も同じ教室にいて初めて見る、彼女の少しだけイラついた、人間らしい顔だった。