Darkest White
「あたしさ…あんたに深入りすんなって言ったよね?バカなの?」
決して声が通るわけでもない教室で、彼女の声だけがまるでビブラートを含んでいるかのように大気を震わせて、わたしの元へまっすぐと届く。
わたし達の間には微妙な距離がある。それは彼女が椅子を引いて離れたことによるもので、それが彼女が張っている透明な堤防なのではないかと思った。
「……あたしといていいことなんて一つもないのに関わるなんて、相当あたまおかしいから。浮かれた不幸人らしい。」
その言葉が少しだけ胸を痛めた。不幸人らしい、か。
そうかもしれない。
初めての喜びに、わくわくや楽しさ。それを感じさせてくれたのは全て彼のおかげで…初めて恋にまで落ちてしまったわたし。
きっと調子に乗っているんだろうなって、心の片隅で考える。だけどその思いは鈍い幸せによって流されつつある。
もっと知りたい。
彼のことをもっと知って、わたしが一番になりたい。
そう、表面の自分が叫んでいるから。
彼女の言う通り、始めて幸せをつかんだ者は浮かれ、頂点に立ち、そのまま一定の幸せを保てることもなく降ることしかできないのかもしれない。もしそうなら、わたしはこれからどんな絶望を見るのだろうか。
「名無しの男。もしあいつに惚れたんなら、やめな。」
その無機質な声が胸の底をえぐった。
「不幸への第一歩だよ。」
そうつぶやいた彼女の声を背後に、知らないうちにわたしは教室を飛び出していた。
走った。
たくさん走った。
それでも焦りと不安は消えなくて、彼女が追ってきているのではないかと震えた。
もうやめてよ、って。
聞きたくないよ、って。
光と一緒に時を共に過ごして、同じベッドでも寝たことのある間柄の、その彼女から聞く言葉が怖くて…それ以上に悔しかった。