Darkest White


久しぶりに袖を通すワンピースが足元で小さく揺れている。

あまりにもキツくピンで止めたせいか、髪の毛が引っ張られているようで少しだけ痛い。

近くのコンビニから出てくる親子の楽しげな笑い声を聞きながら、じっとりと汗ばんだ両手をワンピースの袖で拭いた。


北風がふいて、一瞬だけ髪で視界が隠された。



「凛ちゃん…!」



わたしはたまに、勢いよく動くブランコの上で、立ち漕ぎをしているような錯覚に陥ることがある。

光溢れる天空へと体を浮かせるけれど、すぐに地面の方へと引き摺り下ろされる。現実を見ろって、そう言われているような気がして、気が急いてならなかった。


広い青空が似合うあの人が、わたしの上で微笑んでいる。



「……凛ちゃん、!」



肩を叩かれて弾かれたように顔を思いっきりあげる。そんなわたしを見ておかしそうに、そして本当に嬉しそうに白い歯を見せて笑っている。


「本当に久しぶりだなあ!…心配だったんだからな!」


小さい頃からしてくれたように頭をぽんと撫でられて、自分が今ブランコの高みにいることがわかる。


すぐに、後ろへ逆戻りしてしまうのに。


「久しぶり、笹原さん!」


笑っているのに泣いているみたいな濁った心。それを隠すために、ブランコを漕いで漕いで、頑張ってわたしは漕ぐ。後ろへ行くまい、行くまいって…あまりにも力みすぎて体の節々が痛くなりそうだ。


「一時帰国する気分はどうだい?」


眼鏡の奥の優しい瞳が悪魔のように見えた。


留学なんて嘘のくせに。


お前は何をしているんだ。


いくら逃げても罪は変わらない。


僕は全てを知っている。


………………。


「うーん…なんか、久しぶりの日本を満喫したいな!」

「そうだよなあ…オーソトラリアは日本とは全然違うもんなあ。」


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